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【ひぐらし】― VIPDOM HEARTS X―【てっぺい☆】

1 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 21:14:48.11 ID:yZdtllSO0
1週間ぶりの次スレ。
このスレはVIPDOM HEARTS 本スレです。
基本的に書き込みは携帯からなので遅め。
作品は主に夜の投下となります。
kwskは>>2

このスレはひぐらしメインで書いていく予定。
鉄平が主人公の甘やかし編を投下します。

前スレまでのSSまとめ ZIP
http://up3.viploader.net/mini/src/viploader109250.rar
L 対 地獄少女
http://up3.viploader.net/mini/src/viploader109253.txt

2 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 21:18:05.86 ID:yZdtllSO0
VIPDOM HEARTS とは?

人気作品のキャラかき集めて無理やり絡ませれば面白くなるんじゃね?
という短絡的な発想から生まれた1のオナニー小説です。
kwskは上に貼ってあるまとめ見てくれ。
簡単な説明ですまん。

3 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:22:02.38 ID:yZdtllSO0
 可哀想な蛙は言いました。
 全てが夢だと分かっているなら、何も恐れることは無い。

 可哀想な蛙は言いました。
 どうせ全ては現実で無いのだから、何も嘆くことは無い。

 可哀想でない蛙は言いました。
 お前…………頭大丈夫か?

                  Frederica Bernkastel


4 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:22:20.73 ID:yZdtllSO0
昭和53年6月17日 15時29分
××県鹿骨市 雛見沢村 北条家


「沙都子おおぉッ!! 酒はもう無いんかいね?!!」
 雷鳴の如き怒鳴り声が、雛見沢の一角に位置する小さな一軒家にこだました。
 北条家の居間で酒に浸る男――北条鉄平が、今日も鬼のような形相で幼い姪を叱り付けている。
 巨漢の彼は、度々暴力を重ねることで姪の躾と称していた。
 世間の子供に対する躾けがどの程度のものかは分からないが、彼が常を逸しているのは目に見えている。
 実の親の優しさを知らない少女に襲い掛かるのは、叔父からの虐待だった。
「……い……今、ちょうどお酒は切らしていまして――」
「なぁら、さっさと買ってくるんよ!!! こんのダラズッ!!」
 間髪いれずに怒鳴り散らす男。

 ビクッ!!

 その度に震え上がる少女。
 だが、叔父は震える暇すら与えてはくれなかった。
「どうしたんね? はよう行かんか!!!」
「わ……分かりましたわ……」
 沙都子は、死んだ魚のような目を伏せて弱々しくそう言うと、玄関の方へ歩いて行った。


5 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:22:35.54 ID:yZdtllSO0
「ったく……ほんに使えんガキやね……ほんに……あんのダボがッ……」
 そう愚痴を吐きながら、鉄平は廊下へ出る。
 沙都子がいなくなったとなれば、目的地は一つ。
 今は使われていない、悟史の部屋だった。
 鉄平は悟史の部屋の前まで来ると立ち止まり、周囲を見回す。
 沙都子はいない筈だが、警備用のトラップが仕掛けられているかも知れないからだ。
 いくら自分が大人だとは言え、頭上から漬物石など降って来てはひとたまりも無い。
 何故か沙都子は、鉄平が悟史の部屋に立ち入る事を頑なに拒んでいる。
 それは、大好きだった兄を唯一感じていられる場所を失いたくない故の心情だったのだが、鉄平にはそのような心情など理解できる筈もなかった。


6 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:22:52.10 ID:yZdtllSO0
 そして、不可解な行動を取る少女に苛立ちを覚える鉄平の暴力はエスカレートし、彼女を余計に傷付けてしまう。
 精神的に弱っていくにつれ、沙都子は兄の面影を追い、聖地とも呼べる部屋を守ろうとする。
 完全な悪循環である。
 しばらく周囲の壁を叩き、床を踏み、何も起きないことを確認した鉄平が、
「……ふぅ……なぁんも無さそうやね……」
 と、安堵の言葉を呟いてドアに腕を伸ばした瞬間。
 階段の陰から少女が叫び、飛び出してきた。

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


7 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:24:00.23 ID:yZdtllSO0
「んなっ……沙都子!? お前、酒買いに行ったんやなかったんかいね?!」
 状況を把握出来ず、ただただ驚愕とする鉄平。
 狂ったように喚きながら、虚ろな瞳で宙を見つめている沙都子。
 その空間だけ世界が……停止したようだった。
「にーにぃいいいいいいい!!!! にーにぃいいいい!!! あぁぁあああぁっぁぁぁぁっぁあああああああああああぁぁぁぁ!!!!」
「お、落ち着くんね、沙都子……ワシはただ、部屋を見とっただけ」
「うぅぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!! にーにー!!にーにー!!!」
「……あぁ、もう……やかましかッ!!! ちと黙らんかい!!!」

 ビシィッ!!!

 ビシィッ!!!

 ビシィッ!!!


8 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:26:49.63 ID:yZdtllSO0
 鉄平は、泣きじゃくる沙都子を叩き。殴り。蹴り倒す。痣が出来るまで繰り返す。
 最初は喚きながら抵抗していた沙都子も、身体を蝕む痛みから徐々に我に帰ってきた。
「はぁ……はぁ……泣き止んだかいの……はぁ……」
「…………」
 沙都子は何も言わず、人形みたいに動かず、ただ、壊れていた。
 鉄平はそんな事には気も留めずに、平然としている。
「いいんね? ワシはな、なーんも沙都子が嫌がる事はしちょらんよ?」
「…………」
「ただ、この部屋ん中にちと、興味が合ってな。すこーしばかり覗いて見たいだけなんよ」
 先程までとは変わって、なだめるように猫なで声で話しかけながら、鉄平が沙都子の肩を掴んだ。
「ワシが部屋に入っても…………構わんね?」
「…………」
 だが、沙都子は何も答えない。
「構わんね?」
 そう言うと同時に、鉄平は沙都子の肩を掴んだ手に圧力をかけた。


9 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:30:05.00 ID:yZdtllSO0
「……っく……ぅぅ……っ!!」
「 構 わ ん ね ?」
「…………」
 鉄平は沙都子が何も言わないのを、肯定と受け取ったのか、部屋のドアに手をかける。
 ゆっくりとドアを開き、中に足を一歩踏み入れた。
 瞬間――
「ぁっ……! そこは…………!!」
 沙都子が何かを思い出したように呟いた。
「ん? なんね――」
 鉄平が振り向いた時には、既に遅かった。
「ぶひゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」
「お……叔父…………さま……?」
 沙都子は忘れていた。
 叔父が帰ってくる以前の事を。
 兄の部屋を守ろうと悪戦苦闘していた頃を。


10 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:33:09.24 ID:yZdtllSO0
「う〜ん……どう考えても警備トラップの詰めが甘いですわね……」
 既に悟史の部屋には数百もの罠がしかけられていたが、沙都子はそれでも不満足だった。
 腕を組み、深くのめり込む様に考え、バリケードをより強固なものにしようとする。
「いっその事、天井から漬物石でも降らせてみましょうかしら……」
 しかし、この部屋は傷つけたくない。出来れば、失踪した時のままにしておきたい。
 にーにーが「むぅ……」と言いながら帰ってくる時の為に。
 沙都子はしばらく、部屋に痕が残らない罠は無いかと考えて――
「そうですわ!!」
 何かを閃いて大きな声で叫んだ沙都子は、マッハの速さで罠製作にとりかかる。
 そうだ、あるではないか。
 兄の部屋を傷つけなくて、尚且つ多大な攻撃力を誇る。
 強烈な罠が――




11 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:34:49.68 ID:yZdtllSO0
    ひぐらしのなく頃に 甘やかし編






                 北条沙都子
                 北条鉄平

                 前原圭一  園崎詩音
                 竜宮レナ  大石蔵人
                 園崎魅音  入江京介
                 古手梨花  鷹野三四



12 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:37:46.36 ID:yZdtllSO0
昭和53年6月18日 09時42分
××県鹿骨市 雛見沢村 学校


その日、普段なら生徒達の声で騒がしい筈の教室は、異常な空気で満たされていた。
 まるで平穏な日常の中に、いてはいけない何かが禍々しく徘徊しているかのような錯覚に陥る。
 騒ぎ――いや、問題の原因となっているのは、園崎魅音率いる部活のメンバー達だった。
「圭一くん……大丈夫?」
 周りを取り囲む生徒達の一人、竜宮レナが心配そうに圭一に話しかける。
 どうやら、輪の中心で圭一という少年が床に倒れていたらしい。
「……急に倒れたからびっくりしちゃったよ〜はう〜」
 おどけるようにレナは空気を取り繕う。
 異様な流れを、何とかして普段のものに戻そうという些細な努力だ。
 だが、そんな彼女に圭一が発した言葉は辛辣なものだった。
「うるさい。……黄色い声で話しかけるな。」
「…………ッ!」
「……ひっ、……!」
「…………」
 びくっとして、皆が後退る。予想外の反応だったのだろう。
 確かに、彼の声は少年のものでは無い。
 鬼か或は殺人鬼を髣髴とさせるような、ゾッとする恐怖を帯びていた。


13 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:39:23.10 ID:yZdtllSO0
「……何だよ」
 冷たい視線で教室を見渡す。
 レナや魅音、梨花達は何も言わないで突っ立っていた。
「…い、…今の…圭一くんの…声?」
「……当たり前だろ」
 レナが唾を飲み込んで恐る恐る口を開く。
「…今、一瞬…圭一くん、……その、……すごい目だった」
「…目……?……光の角度でそう見えたんだろ。……馬鹿馬鹿しい。」
 圭一が下らない冗談でも聞いたように鼻で笑い飛ばした。
「…み、……間違いじゃないよ……あんな目……はじm」
「魅音空気嫁」
「………」


14 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:39:59.50 ID:yZdtllSO0
 実は誰一人、この教室内というフィールド上に存在していないんじゃないかと思えるくらい、静かな。
 目に映る全ての時が止まっているんじゃないかと錯覚してしまうくらい、静かな。
 皆が呼吸をしている事すら信じられなくなる程、静寂に沈んだ教室。
 誰もが、その静寂を破る事を禁忌のように感じていた。
 この悪夢のような時間が全て、自分の愚かな夢の産物ならどんなに素晴らしいか。
 硬直する空間の中、誰もが緊迫した空気に限界を感じている。
 しかし、その時……誰かが禁忌を犯した。

 ガラッ



15 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:42:56.02 ID:yZdtllSO0
 ドアが開き、最初に見えるは小さな手。腕。足。薄緑の制服。
 黄色い髪、愛らしい八重歯、そして――生意気なお嬢様口調での挨拶。
「……あら……皆さん? ……どうされたんですの?」
「…え……沙t」「沙都子!!」「沙都子ちゃん?!」
「みなさんは一体私がいない間、何をしていらっしたのですの? まさか、喧嘩……? な〜んてこと、ありませんわよね?」
 沙都子は、一瞬でこの気まずい雰囲気を読み取ったらしい。
 空気が悪くなっていた圭一と魅音、そしてレナを交互に見ながら、呆れた様子でそう言った。
「沙都子……もう叔父の虐待は大丈夫なの?」
 突然の発言に場が凍てつく。
 こういう事は普通、虐待を受けている本人に直接聞かない。
 魅音は顔面にレナパンを喰らって壁まで吹っ飛ばされる。
「……さ、沙都子ちゃん……無理に言わなくていいんだよ? ……だよ?」
「そ、そうだぞ…嫌なら思い出さなくても……」
 レナと圭一は何とか沙都子を傷つけまいとする。
 せっかく学校に来てくれた少女を、傷つけて帰宅させることだけは避けたい。
 吐いて発狂――なんてことになられては、堪ったものではないからだ。
 しかし、沙都子の反応は極めて意外なものだった。

「おーっほっほっほっほ!! 皆さん、まーだそんなことを気にしてらしたんですの?」


16 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:45:21.87 ID:yZdtllSO0
「……え?」
「沙都子、お前……叔父に脅されているのか……?」
「……は? 一体さっきから何を言ってらっしゃるんですの?」
 圭一達の心配に反して、沙都子の態度は非常にあっけらかんとしたものだった。
 まるで、本当に何事も無かったかのような。
 それでいて、決して本心を隠している訳でもなさそうだ。
 あれ? ……ってゆーか、こいつ血色も良くなっている気がしないか?
「沙都子……あんたまさか洗脳されてたり……しないよね?」
 魅音が、また意味不明な事を言っている。
 ホント空気嫁よ。
「だって……こないだ三四さんに見せてもらったノートに『雛見沢の人間は皆、宇宙人に洗脳されている』って……」
 こいつは無視だ。圭一はそう決めた。
「みー。どうして、沙都子は急に学校へ来れるようになったのですか?」
 梨花ちゃんが沙都子に聞く。
「叔父様が――」


17 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:46:00.53 ID:yZdtllSO0
 叔父という単語を聞いて、魅音以外。の表情が曇る。
 やはり、まだ触れられたくない事があるのかも知れない。だが、
「叔父様が『ワシの看病はもういいから、皆を心配させないように学校に行け』と………」
 誰も予想だにしていたかった台詞に、再び場が凍った。
 教室にいる全員が、沙都子の発言を信じられないといった様子で凝視している。
「まだ病み上がりだから体調が良くありませんのに……心配ですわね……」

 バンッ!!


18 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:47:58.25 ID:yZdtllSO0
 その時、突然強く机が叩かれる音がした。
 振り返る。それは、圭一が涙を流しながら椅子を蹴り飛ばした音だった。
「チクショウ!!!! 遅かった!!! もう遅かったんだ!!!」
「え…圭ちゃん…?」
 困惑する魅音を無視して圭一は叫び続ける。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!! 何故、何故もっと早くに助けられなかったんだ?!」
「遅かったって何が?!」
「沙都子は狂っちまったんだよッ!!!」
 一種の確信とも言える感情を持って、圭一は断言した。
 当然、沙都子は圭一が何を言っているのか分かっていないようだ。
「は? 圭一さんは何をおっしゃっていますの? 私は―」
「もういい……!! もういいんだよ……ッ!!」
 皆が『あいつ何言っちゃってんの?』的な目で見てくる。
 だが、圭一は気にしない。
「だっておかしいだろ?! あんなに酷い事されてたのに、こんな……こんな平然としてるなんて……ッ!!!」
 圭一は大粒の涙を零しながら、ぎゅっと沙都子を抱きしめた。
 沙都子は顔を赤らめ、腕から逃れようともがいた。
「ちょ……ちょっと! 圭一さん?!」
「ごめん……ごめんな……ぅっ……ぅぅ……」
 困惑するクラスメート達は、状況を理解出来ていなかった。
「ぅっ……うぅ……今度こそ……今度こそ俺が……あいつを――」


19 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:49:55.27 ID:yZdtllSO0
「何ですかさっきから騒がしい! 今は授業中ですよ!!」
 授業を自習にしてカレーを食べていた知恵先生が教室に入ってきた。
 どうやら職員室まで、教室内での騒音は響いていたらしい。
「うるさくてカレーも食べれな…………北条さん?!」
 知恵先生が沙都子の姿に気付いて近づく。
 圭一を引っぺがすと、沙都子に優しく話しかけた。
「……よく来てくれましたね。」
「ご心配……おかけしましたわ。」
「もう大丈夫ですか?」
「ええ、じーじ……いえ、叔父様の具合もよくなりましたし……」
「……は?」
 具合? 良くなった?
 ……………………じーじー? にーにーじゃなくて?
 やはり、知恵先生も理解出来ないらしい。頭の上に「?」を浮かべている。
「ほ、北条さん? それは一体……」
「えっと……つまり……」
 沙都子の話を纏めると、こーゆー事だった。


20 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:52:47.48 ID:yZdtllSO0
昭和53年6月17日 15時53分
××県鹿骨市 雛見沢村 北条家


「お……叔父……さま……?」
 沙都子が悟史の部屋前に仕掛けた『高性能探知機能搭載超高電圧電磁波発生装置』による攻撃がクリティカルヒットで直撃した北条鉄平は、
 感電の衝撃から気絶し、10分が経過してもその場に倒れたままだった。 ちなみに悟史の部屋は傷一つついていない。
       救急車に連絡する→助かる→殺される
 という式が頭の中で瞬時に組み立てられた沙都子は、未だに助けを呼べないまま、
「いっそこのまま放置してはどうだろう」なんて考えにまで及んでいた。
「でも……仮に放置しておいて、復活なんてされたら…………どうせなら、ここで殺――」

 ガバッ!!

「!!!!!」
 瞬間、鉄平が起き上がり、沙都子を凝視する。
 その表情は非常に曇っていて、まるで状況が把握出来ていないようだった。


21 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:54:34.74 ID:yZdtllSO0
「あ……あの……い、今から救急車を……呼ぼうと……」
「沙都子ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」
 鉄平が叫び、必死に取り繕おうとしていた沙都子の華奢な体が震える。
 少女は目を閉じ、いずれ来るであろう罵声と攻撃に準備した。
 だが……いくら待っても、鉄平から沙都子に対する仕打ちは飛んで来なかった。
「怪我は無かったんね?!」
「……………………え?」
 聞き間違いだろうか。
 今、怪我は無かったかと聞こえたような……
「怪我は無かったんかと聞いとるんじゃ!!!」
「え……ええ……一応……」
 自分で仕掛けた罠だ。どこが安全かくらい分かっている。
「そ、そか……良かった……本当に良かったんね……」
 鉄平は心から安堵した様子で、ヘナヘナとその場に腰を下ろした。
 よく見ると目に大粒の涙を溜めている。
「あの……お、おじ……さま?」
 沙都子は何が起こっているのか教えてくれといった表情で鉄平を見た。
 相変わらず怖い顔ではあるが、そこからは完全に厳しさや攻撃的な要素が消えている。
「どんしたんね? ……ど、どこか痛い所があるんなら、早く言いんね? 入江の先生んとこ、連れてってやるかんな……」


22 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 21:59:03.90 ID:yZdtllSO0
 やはりおかしい。頭に電流が流れて人格が変わってしまったのか?
 そうとしか考えられないほどの変貌。
 沙都子は異常な光景を目の当たりにして、顔を顰めた。
「んな怖い顔すんでないんね……ほら、ワシはこの通り元気やんね!!」
 そう言って鉄平はその場でスクワットを始めた。
「………………ぷっ」
 想像して貰いたい、必至になってスクワットする汗だくの鉄平を。
 沙都子が少し吹き出してしまったのを見て、鉄平は調子に乗った。
「そ、そんなに面白かったかいの? じゃ、じゃあこんなのはどうかいね?」
 今度は逆立ちしながら『酒と泪と男と女』を熱唱し始めた。
 分からない人はお母さんに聞いてみよう。
 それでも駄目ならググりなさい。
「………………」
 最初は必至に笑いを堪えていた沙都子も、我慢の限界だった。
「あはははははははははははは!!!」
 鼻に竹輪を突っ込んで腹踊りしながら一人アカペラで『翼を下さい』を熱唱する鉄平。
 それが現実だと、沙都子は信じられなかった。
 ――だからきっと、これは夢。
 そう思い込んで、この小さな喜劇を楽しむ事にした。
「ほ〜れほれほれ〜ぃ! 面白いんね? 沙都子? 可笑しいんね?」
 嬉しそうにはしゃぐ鉄平は、沙都子の知っている叔父ではない。
「あはは、あっはっはっはっはっは!!! 苦し、苦しいですわ〜!!!! あははははははは!!!」 \


23 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:00:01.47 ID:yZdtllSO0
 その後、一時間くらい経って。
 ようやく熱の冷めた沙都子は、一応鉄平を病院へ連れて行く事にした。
 本当は鉄平の具合など、どーでも良かった。
 だが、もし今の鉄平が一時的なもので……
 いつか、恐ろしい日々に帰るのだとしたら?
 この夢を終わらせる何かが起きてしまったら?
 また、自分が虐げられる日々がやってきたら?
 一度は芽生えた希望が枯れてしまう。
 そんな事、自分に耐えられる筈が無い。
 だから可能性を潰すのだ。
 今の幸せな時間は永遠に続く訳ではないと、証明するのだ。
 そうして、目が覚めた時、全てが夢だったと知った時。
 押し潰されないように。
 現実の重さで、自分が押し潰されないように。
 兄を失った時と同じ哀しみを受けないように。
 今、自分が夢を見ているのだと証明する。
 その為に、自分は監督の所へ、変わってしまった鉄平を連れて行く。
 沙都子は、そう決心した―


24 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:01:31.41 ID:yZdtllSO0
      Tipsを入手しました
         『夢うつつ』


例えばの話なんだけど――
ここに2つの箱があるとするじゃない?
右と左、どちらかの箱にダイヤ。
もう片方の箱には ちくわ が入ってるとするわ。
その箱を選んだ貴方は、期待して開ける。
当然、ダイヤが出てきたらいいな、と思うじゃない?
でも……運命は残酷なもの。
貴方は絶対に練り物を選ぶ運命なの。
哀しいかな、ちくわを引いた貴方に残されてる道は、死。
死んで再び箱を選び直すしか道は無い。
そう思って、いえ、貴方は思い込んでいるの。
運命は残酷って、さっき言ったわよね。
最終的に貴方は毎回最後、死を強いられる。
何者でも無い。自分自身に。
運命は本当に残酷だわ。
だって……
ちくわの穴の中にダイヤが入ってるんだもの。
それを用意した悪魔の脚本家は最悪。
それに気付かない貴方は間抜け。
それを教えない運命は残酷。
だからね。
一度くらい、ちくわを食べてみてもいいんじゃない?
意外と美味しいわよ。ちくわ。
仮定が常に正しいとは限らない。
今回はそういう話。
……聞いてる?

25 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:03:48.54 ID:yZdtllSO0
入江診療所は、平日の昼だと言うのに、診察の順を待っている人で溢れていた。
受付を済ますと、沙都子と鉄平は椅子に座る。
「…………」
待合室にいた誰もが、沙都子達を見ないようにしていた。
この反応にはもう慣れている。
まぁ、鉄平がこれまでにしてきた所業を考えれば仕方のない事だろう。
だが、それでも鉄平は村人に話しかけていた。
「こんりゃ〜、久し振りやねぇがぁ!佐々木んとこの爺さんやね!!」
「あ……あぁ……北条の……」
以前、鉄平が肩をぶつけた時に半殺しにした爺さんだ。
明らかに佐々木の爺さんからは拒絶の色が出ていたが、鉄平は気付かないで握手なんかしている。
空気の読めなさでは、魅音以上かもしれない。
「アッー! 江戸川さんことの坊主までおるんね!! どうやね、元気やったんね?」
以前、鉄平がやかましいと怒鳴り散らしていた子供だ。
だが、やはり鉄平は忘れている様子で握手を求めている。
「元気なら診療所なんてこねーよ、バーロー」と江戸川くんの目が語っているが、相変わらず鉄平は空気が読めない。
空気が読めないって、実は凄い事なのではないだろうか……?
そんな事を考えつつ、沙都子が村人達にフォローを入れていると、突然背後から声をかけられた。
「あらあら、これは珍しいお客さんね? くすくす……」
「こんにちわですわ。鷹野さん」
すかさず鉄平登場。
「こんれはこんれは鷹野さん、今日もまた一段とべっぴんさんだこって!! いっつも沙都子がお世話になっとりますようで……」
…………流石の鷹野も硬直した。


26 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:06:22.10 ID:yZdtllSO0
「…………鷹野……さん?」
しばらく言葉を失っていたが、沙都子に声をかけられて復活する。
「あ……あら、沙都子ちゃん……この方はどちら様?」
見知らぬ村人でも見たかのように、鷹野は聞いた。
「どちら様って……叔父の北条鉄平ですわよ」
「……頭を打たれたんですか?」
やはり腑に落ちていないようだった。


「次の方どうぞ〜」
 入江の声がしたので、鷹野を放置して沙都子達は診察室へ向かう。
「おや、沙都子ちゃん? どうしました? 具合でも悪いん――」
 机の上の書類に目を通していた入江は、視線を沙都子(の隣の人物)へ移すと硬直した。
「……で……す…………」
「せ、先生?」
 鉄平が心配そうに声を上げる。
 どこからどう見ても鉄平だった。
「いつもいつも、沙都子がお世話になっとるようでして――」
 鉄平の言葉を聞くや否や、入江は沙都子を引き寄せて耳打ちした。
「沙都子ちゃん……この方はどちら様かな?」
 やはり反応は鷹野と同じだった。
 うんざりした様子で沙都子は答える。
「だから、私の叔父の北条鉄平ですわよ……」
「や、やはりそうですか……双子とかじゃなくて……」
 そう言うと、入江は一人で何かに納得した風に鉄平に向き直った。


27 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:08:12.02 ID:yZdtllSO0
「診療所に連れて来るようになるなんて……随分と世間体を気にするようになったんですね」
 入江の目が鋭く光る。
 それは、間違いなく敵意と警戒の視線だった。
「沙都子ちゃん、どこを怪我したんですか?」
 沙都子の腕を掴んで鉄平との距離を持たせると、入江は沙都子の診察を始めた。
「え……? 監督? 違いますわよ?」
「何も違いません。もう大丈夫、怪我は僕が治してあげますよ」
 入江は覚悟を決めた顔で、書類に何かを走り書きしている。
 今、『入院』とかいう字が見えた気が……
「しばらく、うちで様子をみた方がいいですね」
 鉄平の方を向いて、医者らしい目つきをする。
 普通の人なら、有無を言えなくなる程、険しい顔だ。
「はい? 何を言っとるんですかいな?」
「だから、うちでしばらく入院を――」
「いやいや、違うんですよ、先生。今日はワシの怪我を見て貰うんですわ」


28 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:10:46.75 ID:yZdtllSO0
「………………は?」
 再び入江が硬直した。
「誰のですか?」
「ワシの。」
「ナニをですか?」
「怪我を。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!! それじゃ、何で沙都子ちゃんがここに――」
 よほど動揺しているらしい。
「ただの付き添いですわ」
「…………」
 言葉を失うイリー。
 今なら突然部屋にメイドが入ってきて御奉仕されても気付かないだろう。
「な、ななななんで沙都子ちゃんが付き添いに?」
 これまでの仕打ちを考えたら、どう考えてもありえないシチュエーションだ。
「あのー……先生? どうされたんですかいの?」
 空気を読まない鉄平だけが、現状を全く理解出来ていなかった。


29 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:12:36.56 ID:yZdtllSO0
「とりあえず……先程の勘違いは謝罪します」
 そう言って頭を下げたイリー。
「いやいや、誰が怪我したかも言わんかったワシにも責任はあるんね。そう謝らんでええんですよ。」
 必至になってフォローを入れる鉄平。
 入江の隣で見ていた鷹野が信じられない光景に、くすくす笑っていた。
「・・・・・で、今日はどうしてここに?」
 恐らく今、入江の頭には、
『沙都子を殺されとうなかったら、この診療所を明け渡しゃいんね!!』
 などと言いながら刃物を振り回す鉄平の映像が流れているのだろう。
「残念ですが……私は人質ではありませんわよ?」
 沙都子は入江が何を考えているか分かったようだ。
「あの〜ワシの治療は……?」
 恐る恐る鉄平が声をかける。
 こんなの、今までの鉄平なら考えられない行動だった。
「あ、済みません。えっと、北条鉄平さんは、どこが痛いんですか?」
 入江は完全に現在の鉄平を、過去の鉄平と切り離して考えているようだ。
「痛いとこはあらんのですよ、ただ、どうしても沙都子が『見てもらえ』言うてやかましいてね……」
 鉄平が沙都子を見る。
 入江はすかさず椅子から立ち上がろうとしたが、鉄平には暴力を振るう気など無さそうだ。
「監督、実は――」


30 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 22:14:57.57 ID:FVp0sNes0
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31 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:17:44.20 ID:yZdtllSO0
「…………なるほど」
 全てを話し終えると、監督は何かに納得した様子で鉄平に向き直った。
「脳に電撃が走って人格が崩壊・再形成されたんですか……」
 頭をポリポリと掻き毟りつつ、入江は机から取り出した書類に目を通す。
「聞いた事の無いケースですね……」
「先生?! ワシは死ぬんですかいの?!」
 身を乗り出して鉄平が叫ぶ。
「い、いえ、そーゆー事ではありませんが……」
「死ぬんだけは御免ですんよ!!!」
「ちょっと、落ち着いて下さい北条さん!」
 入江は鉄平を椅子に座らせると、書類に向き直った。
「このままの方が、直らない方がいいんです。」
「そ、そうなんですかね?」
 まだ安心しきっていない鉄平は、少し震えていた。
「くすくす……随分と小心者になったわね…………」
 鷹野の小さな笑い声が聞こえる。
 沙都子は何も聞かなかった事にした。

「……沙都子を残して…………死ぬワケにはいかんのですわ……」
 見ると、鉄平の目から一筋の涙が垂れている。
「…………」
「ちょ、ちょっと、叔父さま!!」
 なだめようとする沙都子を引き止め、入江が鉄平に声をかけた。
「……分かりました。では、診察を始めます。」
「監督……」
 心配そうに入江を見上げる沙都子。
「心配ないですよ、沙都子ちゃん。」
 入江は笑顔でそう告げたのだった。


32 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:18:33.66 ID:yZdtllSO0
「正直言って、治る見込みはありません。」
 入江が鉄平にそう告げたのは診察が終わって、沙都子が部屋に呼ばれた直後だった。
「んな……ッ!!」
 鉄平は半泣きで入江を凝視している。
「これから、死ぬまでの間。沙都子ちゃんを大切にしてあげて下さい。」
 それは、よく言う『死亡宣告』というやつだった。
「ワシは、何の、何の病気なんですんね?!」
 もう涙は隠さないモードの鉄平が立ち上がって叫んだ。
「心配しないで下さい。普通に生きてくのには、何の問題もありませんよ。」
 入江は相対的にへらへらしている。
「あの……監督……これは一体どういうことですの?」
 沙都子が入江に近づくと、小声で質問した。
「鉄平さんは今日以前の記憶を部分部分失くしています。そして、その事には全く気付いていません。」
 入江は一呼吸おいてから言った。
「多分、よほどの衝撃が加わらない限り、彼は以前の様に戻りませんよ。」

「え…………」


33 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:18:48.33 ID:yZdtllSO0
「そして、その衝撃は、次に受けたら確実に命を落とすレベルの衝撃です。」
 沙都子までもが、信じられないといった風な表情で入江を見た。
「それは……本当ですの?」
「恐らく、信用出来るデーターでしょうね。東京にいる精神科担当医の友人に徹底した鑑定を行って貰いましたから。」
 沙都子の頬を涙が伝う。
「では、もう……あんな……あんな事をされる心配は――」
「ありません。」
 入江は優しい笑顔で、ゆっくりと、沙都子の頭を撫でた。
「もう……大丈夫ですよ……」
「うわぁあああああああああああああああああああん!!」
 安堵で気が抜けたのか、沙都子は思いっきり入江に抱きついて号泣した。
「今まで本当によく頑張りましたね……」
「うあああああああああああああああああああんッ!!!」
「もう……大丈夫です……」
 再び優しく沙都子の頭を撫でる入江の目には、微かに涙が宿っている気がした。
「何ね? 何で、二人してそんな泣いとるんよ? 先生……ワシはそんなに危ないんですかいね?」
 その場で発言できたのは、唯一、空気の読めない鉄平だけだった。


34 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:23:00.64 ID:yZdtllSO0
 チャイムが鳴った。
 もう一時間以上も話し込んでいたらしい。
「そんな……ことが……」
「………………」
 誰も、何も言おうとしない。
 沙都子の話を信じないワケではなかったが、
圭一達は未だに鉄平がまともな人間に戻ったとは考えられなかった。
「そんなに心配しないで下さいまし、これは夢ですのよ」
「夢……ですか?」
「ええ、きっと、これはにーに……兄が見せてくれた夢ですの」
 確かに、発端は沙都子が悟史の部屋を守ろうとして、仕掛けた罠だ。
 悟史が起こしてくれた奇跡とも言えるかもしれない。
 だが、この場で夢という表現を使う沙都子に、梨花は違和感を覚えた。
「じゃ……じゃあ、鉄平は高圧の電流を頭に流したから、人格が入れ替わっちゃったて言うの?!」
「園崎さん、空気を読みなさい」
「…………」


35 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:27:54.72 ID:yZdtllSO0
その後、沙都子は校長先生と知恵先生に呼ばれて、教室を後にした。
これまでの事や、これからの事について相談するのだろう。
まだまだ、改善されていない問題は山のように残っているのだ。
「沙都子ちゃん……大丈夫かな? ……かな?」
「あぁ……心配だな……」
「大丈夫だって! さぁ、それより部活の時間だよ!!」
「…………」
 魅音はいつもの事として、梨花ちゃんまで様子がおかしかった。
「……世界……初めて…………と、……希望……」
 まるで背後にいる『何か』と会話しているようだ。
 だんだん心配になってくる。
「梨花ちゃん……どうしたんだろ?」
「何かに憑かれたような顔してるけど……」
「ねぇ、部活は〜? おじさん一人で始めちゃうよ〜?」
 さっきから部活部活とやかましい魅音を無視するのにも精神的に疲れたので、
 圭一達はトランプでもしながら、沙都子が帰って来るまで、時間を潰すことにした。


36 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:28:15.66 ID:yZdtllSO0
 10分くらいが経過しただろうか。
 圭一が半イカサマ的戦法により圧倒的優勢へと導かれていたジジヌキは、突然の来訪者により中断される事となった。
「あ! 監督!」
「こんにちはなのですよ、にぱー☆」
「どうも、今日は校長先生にお話があって来たのですが……」
 恐らく、それは沙都子の件についてだろう。
 つーか今、さりげなく魅音が自分のカードを机の下へ隠したな。
 後でバッシングしてやろう。
「校長先生なら今、沙都子を部屋に呼んで話をしてますよ」
「え…………」
 入江の表情が曇る。
「校長先生が、沙都子ちゃんを呼んだ……のですか?」
 誰も入江がぶつけた質問の意図を掴めなかった。
「そうですけど―」
「校長が廊下を走って、沙都子ちゃんに会いに来た……とかではないんですね?」
「はい……」
 圭一はとりあえず頷く。
 嘘は吐いていない。
「そうですか……」
 それを聞くと、入江の表情は安堵のそれへと変化した。
「あの……一体、どーゆーこと?」


37 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:29:29.81 ID:yZdtllSO0
 今度は魅音が入江に聞き返した。
「…………実は――」
 入江は声のトーンを少し落として言った。
「沙都子ちゃんは、現在……とても不安定な状態なんです。」
「……不安定? そ、それって……」
「巨体の人物が近づいてくる、頭を粗雑に激しく撫でられる、一定値以上の音量の罵声で怒鳴られる……等、様々な変化に対応し切れていません。
 暴力的な行為を受ける境遇に陥った場合、 今度こそ発狂してしまうかも知れません。」
「…………ッ!!」
 圭一の背中に冷や汗が走る。
 さっき自分は何をした?
 沙都子に……抱きついたではないか!!
 そんな圭一の様子を見てか、監督は声を少し和らげて言った。
「とはいえ、以前に比べると大分と回復していますから……多少の衝撃では精神的負荷に感じる事はない筈です」
「…………」
 何故、入江が自分達にこんな話をするのか分からない。
 そう思った皆の想いが伝わったのか、入江は落ち着きを取り戻すと再び話し始めた。
「いえ、皆さんにこんな話をしたのは、単に注意して欲しかったからです。」
「注意?」
「ええ、沙都子ちゃんに接する時、これまで通りに振舞っても構いませんが、可能な限りショックを与える事は抑えて頂きたいと……」
 気が付くと、入江の雰囲気がいつにない真剣みを帯びていた。
「……分かったよ、監督」
 そう言って一歩前に進み出たのは魅音。
「魅音ちゃん……」
 入江の真剣な想いはちゃんと伝わったらしい。


38 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:30:08.61 ID:yZdtllSO0
 皆が再びジジヌキに集中し始めた。
 向こうでは、魅音が圭一にイカサマをバッシングされている。集中攻撃だ。
 少女……古手梨花がその輪に加わって、何度も見た攻防の鑑賞を始めようとした時、突如、背後から声をかけられた。
「古手さん、少し宜しいですか?」
 入江だった。
「みー? どうしましたですか?」
 いつものような柔らかい声で答える。
 だが、入江の声に篭った焦燥感を読み取ったのか、瞬時に席を立った。
「沙都子ちゃんの事についてお話が。」
「……分かりましたなのです。」


39 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:30:28.04 ID:yZdtllSO0
「じゃあ、沙都子は危険状態にあって、いつ発症してもおかしくない状態にいると言うのの?」
 梨花の口調は、先ほどとはうって変わって決して優しくなかった。
「ええ……恐らく注射を打たなかったのでしょう……」
 向かいに立っているのは入江。
「あそこまで急速に人間関係の溝を無かった事に出来るなんて、異常です。」
 あんなに酷いトラウマを植えつけられたのだ。
 通常なら、火事場で命を救われても、まだ信用出来ない筈だ。
「チッ」
 梨花が小さく舌打ちをした。
「沙都子ちゃんは……夢を見ているんです……」
「夢……?」
 予想外の単語に、梨花は眉をひそめる。
「ええ、現在自分の身の周りに起きている事を全て、夢で済ませようとしています。」
「そんな――」
 都合の良い事が出来る筈はない。
 そう言いかけて、梨花は口を閉ざした。
 発症患者には何が起きても不思議ではない。
 それを最もよく知っているのは自分ではないか。

40 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:31:08.73 ID:yZdtllSO0
「夢から覚ましてあげる方法は……ないの?」
「……北条鉄平が元の状態に戻れば……或は……」
 そこで入江は言葉を詰まらせた。
「それしか……無いのね……」
 だが、当の北条鉄平が同じく発症状態に陥っている。
 しかもこれまでの自分に不都合な記憶を無くしているのだ。
「高度の発症者が二人……ややこしい事になったわね……」
「しかも危険値は二人とも平均値を遥かに上回っています。」
 一応注射は投与したが……もう健康体へ回復させるのは不可能だろう。
「とはいえ、現実を『現実』と認識していないこと以外は、全て小康状態の時と同じです。普段どおりの生活は送れるでしょう。」
 無理に楽観的な見方を見解を述べる入江の笑顔は、見ていて痛々しかった。
 黙って天を見上げる梨花。
 いつのまにか、空は曇り、今にも雨風が猛威を奮いそうな空気だ。
「何故、沙都子は自分に起きた奇跡を拒絶するのかしら……?」
 それは、梨花自身への問いかけだったのかもしれない。
 入江は、何も言わず、ただその無力さを実感するばかりであった。


41 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:32:24.53 ID:yZdtllSO0
 教室では、既にジジヌキが再開されていた。
 まだ沙都子の姿は無いようだ。
 だが、先程の入江の言葉が効いたのか、圭一とレナの空気は重かった。
「みー……遅くなってごめんなさいなのです……」
 梨花は、自分の席に着くと、トランプを手に持つ。
「あれ、監督はどうしたの?」
 魅音が周囲を確かめる。
「さっき、校長先生の所へ行ったのですよ。」
「ふ〜ん……まぁ、それはいいとして」
 なら最初から話題を振るなと小一時間(ry
「よ〜し、じゃあ今度はおじさんの番だね〜!!」
 魅音がカードを圭一から抜き取る。
「やった〜ここで2枚揃ったから一気に逆転ッ!!!」
「……あぁ」
 だが皆の雰囲気は沈んだままだ。
「さぁ!次は圭ちゃんの番だよ〜!!」
「……はぁ」
 圭一は軽く溜め息を吐くと、カードを机の上に投げ捨てた。
 廊下に何度も目をやっているところを見ると、沙都子の帰りを待っている様子だ。
「圭一、心配しなくても、沙都子はすぐに戻ってくるのですよ」
「そう……だよな……」
 学校内で行方不明なんて、通常はありえない。
 恐らく、後で知恵先生に連れられて戻ってくるのだろう。
 圭一達は、この時、本気でそう思っていた。

42 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:32:51.88 ID:yZdtllSO0
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       『空気投げの極意』



「魅音」
 師匠――園崎お魎は言った。
「これからお前に授ける技は、殺人技じゃ」
「……はい」
 神妙に頷く魅音。
 殺人技、すなわち他人様の生命を奪い取る為の技。
 この技を授かるということは、自らの命も賭けるということになる。
 それを見越して、魅音は決意したのだ。時期頭領としての器を得る為に。
「では、空気投げを授けよう。よぅ見とれ」
「ありがとうございます」
 お魎は全身全霊で気合を込め、構えをとる。
 それは、老体とは思えない程の気迫を醸し出し、魅音を圧倒した。
「くっ…………な、なんて……覇気……」
「かぁあああああああああああああああああああああああッ!!!!」
 道場の窓にヒビが入り、床板は裂け、大気が揺れた。
(これが……園崎お魎の実力……スゴい……)
 ただ、あまりの格の違いに戦慄する。
 魅音は話すことさえ侭ならない程、圧倒されていた。
「……ふぅ」
 お魎の攻撃が止む。辺りは、一瞬で静まった。
 ようやく身体が動かせるようになった魅音は、真っ先に口を開いた。

43 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:33:35.52 ID:yZdtllSO0
「…………今のが……空気投げ?」
「いんや、空気投げの準備に過ぎんわ」
 あの大気を歪ませる程の気合が――単なる準備?
 なら、技の真の力は一体、如何なるものだと言うのか……
 間違いなく、人を殺す程度で収まる筈が無い。
「…………………」
 自分は、何て甘い覚悟をしてしまったのだろう。
 俯いて己の無力さに絶望していた魅音に、お魎は告げた。
「魅音……空気投げはなぁ、その名の通り『空気を殺す』んよ」
「空気を……殺す?」
 そんなこと、人間に出来るわけが無い。
 なぜなら空気は無生物。生きてすらいないのだから。
「まぁ、聞きんしゃい。空気はな、生きちょるんよ」
 ついに耄碌したか鬼ババァ、と魅音は思ったが言わなかった。
「空気は大気、大気は雰囲気、雰囲気は流れを司る」
「……その場のムード、ってこと?」
「そうじゃ」
 満足げに頷き、お魎は言った。
「魅音、流れを変えることを覚えるんじゃ」
「え――?」
「流れを変え、園崎に有利な方へ傾くよう、操作するんよ」
 そんなことが実際に出来る奴は、口先の魔術師になれるだろう。
 ただただ呆然と話を聞いているだけの魅音を諭すように、お魎は言った。
「いいか、よぅ聞け魅音。空気を捨て、一人違う世界に生きる。それが――」

――空気投げの極意 だと。


44 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:34:25.16 ID:yZdtllSO0
「まだ戻っていない?」
 最初に教室に入ってきた知恵先生は、困惑した表情でそう言った。
「校長室から出て……トイレや保健室はどうでしたか?」
「いえ、どこにも姿は見当たりませんでした。」
 校舎を一周してきた入江が、息を切らしている。
「じゃ、じゃあ先に帰ったとか……」
「ここに鞄が置いてあるから、それはないと思うな。」
「それに、外は大雨だよ? 沙都子は今日傘持ってきてないでしょ……」
「……なら、どこへ行ったんだよ、チクショウ!!!」
 今すぐにでも沙都子を探しに行こうとした圭一を、入江が引き止めた。
「駄目です。今はどこに行ったかの目星くらい付けましょう!」
「……ッ!!!」
 嫌な予感が圭一を縛り付ける。
 未来が潰えてしまうような……嫌な予感だ。
「沙都子は……どこに行っちまったんだよぉッ!!!」
 叫んでも、どうにもならない事くらい知っている。
 それでも、この理不尽さを何かにぶつけなくてはいられなかった。
「クソッ!! もう目星なんか付けてられるか!! 俺は探しに行くぞッ!!!!!」
 雨の中で震える沙都子を想像した圭一は、もう耐えられなかった。
「待っ――」
 圭一が教室の戸に手をかけそうとした瞬間、戸は圭一ではない誰かの手によって開かれた。


45 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:35:17.99 ID:yZdtllSO0
「…………」
 それは、北条鉄平だった。
 見間違える筈もない。紛れも無く沙都子を虐待していた本人だった。
「あんれ、皆さんどうすたんです? 入江の先生まで――」
 何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?何故ここに?
「…………ぁ……ぁぁ……」
 圭一の様子がおかしい。
 俯いたまま微動だにしない。
 まるで、己の中の狂気を抑制しているようだ。
「沙都子はどこ行ったんですかいね?」


『サトコ』


 鉄平からその言葉を聞いた瞬間、圭一の中の何かが爆発した。

46 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:37:04.62 ID:yZdtllSO0
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 鉄平に当身を喰らわせ、巨体がふらついた瞬間、足を払って倒れさせる。
 上に乗り上げると、腕を膝で押さえて、何度も鉄平の鼻を拳で殴打した。
「オマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノセイダオマエノ」
「ちょ、ちょっと、落ち着いてよ、圭ちゃん!!!!」
「圭一くん!!!!止めてよッ!!!」
 魅音やレナ達が圭一の体を押さえてなだめようとする。
 だが、圭一は普段からは想像もつかないような馬力で二人を跳ね返す。
 近くにあったロッカーを適当に開けると、そのには鉄バットがあった。
 昔、転向して行った生徒の忘れ物だ。
 理性を失った圭一は、鬼のような形相でバットを掴む。
「沙都子を返せぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!!」」
 圭一が振り上げた腕を、鉄平の頭上めがけて振り落とそうとする。
「前原くん!!!!!」
 入江の声が響き、圭一の攻撃は止んだ。
 どうやら、入江が背後から圭一の両手を羽交い絞めにしたらしい。
「大丈夫ですか……?」
 入江が鉄平に手を差し出す。
 皆は、それを不愉快に感じているようだった。
「はぁ……入江の先生……はぁ……ん……んん……はぁ……」
 恐怖の所為か、鉄平の顔が強張っていた。
「落ち着いて下さい、前原くんの行為に関しては、代わりに私が謝罪しますので……」
 入江が頭を下げる。
「いや……すまんね……すったら、驚いただけなんよ……」
 特に怒る風もなく、鉄平は息を吐いた。


47 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:37:45.46 ID:yZdtllSO0
 皆、これがあの鉄平? といった視線で見つめている。
「んだら、んな視線で見つめられたら……」
 素的な勘違いをしていた。
「前原さんちの坊主も……何か理由があったんやね?」
 微笑みながら鉄平が圭一を見る。
「…………」
 相変わらず、圭一は無口で鉄平を睨みつけていた。
「それはともかく……さっき沙都子を返せとか何とか……」
「そうだ!!! 沙都子!!!!」
 行方不明になっていたのをすっかり忘れていた。
「沙都子がどうかしたんかいのぉ?!」
 鉄平の表情が一変する。
「いや……そのですね……」
「沙都子はどこにおるんねぇ!!!!!!!」
「実は――と、いうワケで……」
「すったら、何でこんな所ですってんことしとるけぇ!!!! こんのダラズラッ!!!!!」
 鉄平が怒鳴り散らす。
 いくら性格が反転したとはいえ、やはり鉄平の迫力は劣っていなかった。
「こない事しちゃおれんね……今すぐ沙都子探しに行くんね……ッ!!」
 鉄平が教室を飛び出して雨の中へ消えて行った。

「何しに来たんだろうね……あいつ……」
 魅音達はそちらの方向をしばらく呆然と眺めていた。
「おや、これは――」
「…………」
 雨は、止む事を知らず。
 淡々とその激しさを増しているばかりだった。


48 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:38:22.77 ID:yZdtllSO0
      Tipsを入手しました
        『雨の贖罪』


ごめんなさい
誰かが謝罪の言葉を口にする
ごめんなさい
誰も許しの言葉を口にはしない
ごめんなさい
雨の音が謝罪の言葉を掻き消す
ごめんなさい
誰の耳にも届かない言葉は彷徨う
ごめんなさい
いくら謝罪しても許されない罪だから
ごめんなさい
それは雨の贖罪なのかも知れない
ごめんなさい
誰に対してのものでもない贖罪
ごめんなさい
魔女は曇天の空を見上げる
ごめんなさい
もう謝らなくてもいいの
ごめんなさい
私は貴方を許します
ごめんなさい
聞こえる
ごめんなさい
声が
ごめんなさい


49 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:38:47.66 ID:yZdtllSO0
「沙都子ぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
 鉄平はバイクで村中を捜索した。
 しかし、どこを探しても沙都子の姿は見当たらない。
「ここでもないんね……すったら……どこいったんね……」
 家にも以前住んでいた神社にもいない……
 もう雛見沢は全て回った。
 まだ探していないのは、山の中か……興宮の方だ。
 だが、流石に子供の足でこの雨の中を移動するのは不可能だろう。
 もう手は全て尽きていた。
「……戻るしかないんかね……」
 バイクを再び動かそうとするが、何故かエンジンがかからない。
「……こんダボが!!」
 鉄平は傘も差さずに駆け出していた。
「…………」
 おかしい。
 いくら雨が降っているとは言え、さっきから誰の姿も見当たらない。
 学校へ向かう途中の道では何度か村人を見かけたのだが……
 今ではまるで違う世界へ自分だけ飛ばされたのではないかと疑いたくなる程、村の雰囲気が違って感じた。


50 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:39:12.99 ID:yZdtllSO0
 何故、誰もいない。
 何故、沙都子が消えた。
 何かがおかしい。
「気味が悪いんね……」
 独り言を呟きながら鉄平は、停留所の近くまで来た。
 雨は何とか防げそうだ。
「……ありゃ……」
 見ると、停留所のボロ小屋には先客がいたようだ。
 鉄平はしばらく雛見沢を離れていたが、余所者かどうかくらいの区別は付く。
 カメラを下げているところを見ると、どうにも観光客かなにかのようだ。
「……」
 無言で隣に立つ。
 流石にこの雨の中、傘も差さずに学校まで戻るのは無謀だった。
「……雨、早く止むといいですね。」
 呆然と天を仰ぐ鉄平に、隣の男が話しかけてきた。
「ん……あんた、東京の人かいね?」
 何故、急にこんな事を聞いたのか分からなかった。
 些か失礼な質問だとは思ったが、どうしても鉄平は気になったのだ。
「あぁ、初めまして。僕は富竹と申します。東京でフリーのカメラマンをしていましてね。こうして時々雛見沢へ遊びに来るんですよ。」
 笑顔の似合う男だった。
 それにオーラが堂々としている。
 少なくとも、カメラマンには見えないくらい。
「そんでずか……」
 あまり関わらないのが正論だろうと、鉄平は判断して、再び空を見上げる。
 まだ雨は止みそうになかった。


51 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:39:40.74 ID:yZdtllSO0
「それにしても――」
 富竹と名乗るこの男性は、余程、鉄平と会話がしたいらしい。
 仕方が無いので、時間潰しに付きやってやる事にした。
「この時期にこの天候……やはり今年も何か起きるんでしょうか……」
「?」
 時期? 天候? 一体何を言っているんだ? この男は……
「まぁ、やっぱり何も無いのが一番ですがね。」
「ちょ、ちょっと待たんか、一体時期って何の話をしとるんね?」
 鉄平が呼び止めて話を中断させると、富竹は眉を顰めて囁いた。
「……あなた、雛見沢の人でしょう? 知らないんですか?」
「な……何を――」
「オヤシロ様の祟り」

 オ ヤ シ ロ サ マ ノ タ タ リ

 どうしてだろうか、その言葉を聞いた瞬間、鉄平は聞いてはいけない事を聞いてしまった気がした。
「毎年、綿流しの夜の翌日に誰かが死に、誰かが消える。通称オヤシロ様の祟り。」
 頭が痛い。頭蓋骨の中で誰かが叫んでいるようだった。
「ワ……ワシは知らん……ワシは何も知らん……」
 脳裏に『誰か』の撲殺死体が浮かび上がる。
 自分が『誰か』を殴っている映像。
 女性が『誰か』を蹴っている映像。
 非常に気持ち悪くなって、鉄平は吐いた。

52 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:40:25.06 ID:yZdtllSO0
「だ、大丈夫ですか?!」
 富竹が近寄って来る。
 鉄平は腕で富竹の手を払いのけた。
「す……すまんね……気分が優れんのよ……」
 何故か分からないが、最悪の気分になった。
 オヤシロ様の祟り……記憶にない言葉だが、自分は酷くそれに怯えていた気がする。
「コトシハ……ワシ…………カ……?」
 震えた声で鉄平が呟いた。
 富竹はその言葉に気付かなかったのか、何も言っては来なかった。

「んっしゃ、そろそろ雨も上がった頃やんね。」
 それから五分くらいして――
 鉄平は立ち上がって、富竹に一礼すると、停留所を後にした。
 だが、頭蓋骨の中の声は未だ鉄平に危険信号を送り続けている。
 『早く逃げろ』と……『今年はお前だ』と……

53 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:41:01.65 ID:yZdtllSO0
「あら、シロウさん、待ったかしら?」
 遅れてきた女性がそう言って富竹に微笑みかける。
 ぶっちゃけ一時間以上待ったが、富竹は笑顔で答えた。
「いや、全然待ってないよ」
 哀しい男である。
 そんな富竹の自己満足を無視して、女性は満面の笑みで歩き始めた。
「ちょっとした用事があってね。入江先生と一緒に学校へ行っていたのよ。」
「学校?珍しいね。君が学校に行くなんて。」
「ええ、でも目的は果たしたわ……くすくす」
「さっきから楽しそうだけど、何かあったのかい?」
「くすくす……楽しみなのよ……夢のようだわ……」
「そ、そうかい?僕と一緒に歩くのがそんなに嬉しいのかい?」
「ええ、最高の気分よ。」
 彼女は立ち止まって呟く。
「だって、神聖なる祭具殿に入る事が出来るんですもの……くすくす……」

54 :ひぐらしのなく頃に 甘やかし編:2007/02/10(土) 22:41:28.59 ID:yZdtllSO0
      Tipsを入手しました
      『水上の足音』



平成7年 8月××日 大阪

 足跡が聞こえた――
 彼は、水面を見つめながら呟いた。
 子供の足跡が、確かに聞こえたからだ。
 ありえない。
 ここは船の上だ。
 足跡? 一体、どこから?
(ついに俺も呆けてきたな……)
 馬鹿らしいと、彼は頭から疑念を振り払う。
 船は既に岸へ向かっている。
 もうすぐ帰れるのだ。
 帰ったら両親を招いてパーティーでもしよう。
 今日は大量に魚が釣れた。
 きっと、喜んでもらえるだろう。
 彼は心を落ち着かせ、息をゆっくり吐く。
 大阪にいる筈の家族を想う。
 昔から苦労ばかりかけてきた……
 仕事の為だ仕事の為だと、無茶をした。
 それもあって大変な心配をかけてしまった。


55 :愛のVIP戦士:2007/02/10(土) 23:06:11.49 ID:yZdtllSO0
……すまんかった

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